東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)29号 判決
原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。
1 取消事由1の主張について
原告は、第五引用例には、例えば籾米の品種、最初の乾燥状態等の他の条件が本願発明のそれらと同一であることが示されていないから、審決が、第五引用例には本願発明(一)の「籾米の連続乾燥に用いた乾燥風の温度風量よりも高温大風量の乾燥風で、籾殻の乾燥が停止する前に籾米を流通する」ことが記載されていると認定したのは誤りであると主張する。
(籾米の品種について)
成立に争いのない甲第七号証の三によれば、第五引用例の表Ⅱ(第一二頁)においては、原告主張のとおり、籾米の品種は特定されていないことが認められる。
しかしながら、他方、成立に争いのない甲第二号証によれば、本願発明の発明の詳細な説明の項に記載されている第一実験例及び第二実験例においても、その籾米の品種は何ら特定されていないことが認められる。
そうすれば、第五引用例には籾米の品種が本願発明のそれと同一であることが示されていないから、審決の認定は誤りであるとする原告の主張は理由がない。
(最初の乾燥状態その他の条件について)
前掲甲第七号証の三及び第二号証によれば、本願発明の右第一実験例及び第二実験例においては、乾燥風の風量(例えば、第一実験例の、乾燥熱風六〇度Cの欄における四m3/<省略>)及び供試籾米の籾殻の乾燥工程の前後における水分含量とその前後両者の差(例えば、右の欄における4.1%……1.4%)とが示されているのに対し、第五引用例の前記表Ⅱにおいては、これらの数値が示されていないことが認められる。(なお、同表Ⅱの「米の水分含量」とあるのは「籾殻の水分含量」とは異なる。)ところで、審決は、第五引用例には本願発明(一)の要件の一部である「籾米の連続乾燥に用いた乾燥風の温度風量よりも高温大風量の乾燥風で、籾殻の乾燥が停止する前に籾米を流通する」ことが記載されているとしているのであるが、
<1> 乾燥風の温度が同一であつても、風量が異なれば、籾殻又は籾米の乾燥の速さは当然に異なつてくるものと考えられ、
<2> 本願発明(一)における前記「籾殻の乾燥が停止する前に」という要件は、前掲甲第二号証(本願発明の特許公報)における、(イ)第四欄第三〇行~第三三行、(ロ)同欄第四一行~第四四行、(ハ)第五欄第三行~第一五行、(ニ)第六欄第七行~第九行、(ホ)第一〇欄第四四行~第一一欄第四行、の各記載を総合すれば、それは「籾殻の乾燥が停止する直前に」あるいは「籾殻の乾燥が停止する若干前に」との意味であるものと解され、
本願発明の発明の詳細な説明の項の第一実験例及び第二実験例に記載されている、乾燥工程前の籾殻に含まれる水分の量が籾米の全重量に対し三・〇~四・一%であることからすれば、これを右(ホ)の部分に記載されている「能率乾燥と安全乾燥を考慮に入れれば、一回に一・五~二・〇%も乾燥させれば充分なのである……」とすると、籾殻に含まれる水分の量を一回の乾燥により五〇%程度も多量に蒸発させることになる、のであるから、乾燥風の風量及び籾殻の乾燥工程の前後における水分の量についての記載のない第五引用例から審決のように認定することが可能か否かについては更に検討を必要とする。
成立に争いのない甲第五号証の二によれば、籾米の乾燥技術の分野において、乾燥装置の構造が特定され、乾燥加工前の水分含量、乾燥に用いる乾燥風の乾燥前と乾燥後の温度、籾米の乾燥室滞留時間(すなわち乾燥時間)、及び乾燥工程後の籾米の水分含量の各数値が示されているときには、その際の乾燥風の風量が一義的に定まることは、本願発明の特許出願前に周知の技術的事項に属し(甲第五号証の二、Aの4の項)ていたものであり、また、籾米の乾燥工程において、(a)最初は急速に籾殻が乾燥する、(b)籾殻は、乾燥または吸湿し易いが、その中味の玄米そのものの乾燥または吸湿は緩漫であることは当業者にとつて当然の技術常識に属し(同Aの1の項)ていたものと認められる。したがつて、乾燥すべき籾米に対し六〇度C前後の乾燥風を一五分程度貫流させたときにも、籾米の表層近く、特に籾殻部の乾燥率は、非常に大きくなつてもその中心部(玄米)の乾燥度は変化がさほど著しくないことも、当業者の技術常識に属する事項というべきものである。
以上の技術常識を踏まえて第五引用例の表Ⅱの数値を検討すると、
<1> 例えば、その第二欄では、乾燥工程前一七・七%水分含量の籾米に一三九度F(約五九・四度C)の乾燥風を約一五分間貫流させたところ、乾燥工程後の籾米の水分含量は一六・一%(すなわち一・六%の減少)、乾燥風の温度は八七度F(約三〇・五度C)になつたというのであり、
<2> 一方、この表Ⅱに挙げられた乾燥工程前の試料米の水分含量は一八・七%程度のものであつたこと、乾燥工程において調湿時間が与えられていること及び弁論の全趣旨からすると、右試料米は籾米を対象としているものと考えられること、からすれば、右表Ⅱの第二欄に記載の、一三九度F(約五九・四度C)の乾燥風を約一五分間籾米の間を貫流させたときの籾米の水分含量の乾燥率一・六%は、ほとんど籾米の表層、すなわち籾殻からの水分蒸発量でまかなわれるものと推認される。
そこで、右表Ⅱにおける乾燥率一・六%減を本願発明における前記第一実験例及び第二実験例の数値と比較すると、
<1> 第一実験例の中で、乾燥風の温度が表Ⅱの第二欄の条件と近似している乾燥風六〇度C、四m3/<省略>の場合、右第二欄の乾燥後の籾米の状態、すなわち籾米が乾燥室から離脱するときの状態は、第一実験例において乾燥を始めてから一・六%だけ含水量が減少した状態、すなわち、乾燥前の籾殻の含水量が四二%から二・五%にまで乾燥した状態に相当する。
この数値は、第一実験例の説明として本願発明について「乾燥度としては充分で、しかも安全を見込んだところ」と記載されている数値、すなわち※印二・二%にほとんど近い数値である。
このことは、右表Ⅱの第二欄の条件が、第一実験例に比較して、乾燥風六〇度Cの風量が四m3/<省略>よりも若干少ないことを推測せしめるものである。
<2> また、これを第二実験例の乾燥風六〇度C、六m3/<省略>の場合と比較すると、それは乾燥工程前の籾殻の含水量三・一%のものが一・五%にまで乾燥した状態に相当する。この数値は、第二実験例説明として本願発明について「乾燥度としては充分で、安全を見込んだところ」と記載されている※一・六%よりも、より乾燥した数値である。
そうすると、右表Ⅱの第二欄に示される資料は、実質上、本願発明の明細書の第二実験例における乾燥風六〇度C、六m3/<省略>を用いて籾米を六~八分間乾燥したものと同等の籾殻の乾燥状態で、籾米が乾燥室から離脱していることを示しているということができる。
次に、右表Ⅱの第三欄記載の、一二四度F(約五一度C)の乾燥風を用いて約一五分間籾米の間を貫流させたときの籾米の乾燥率が一・四%となつた資料を、
<1> 本願発明における前記第一実験例と対比すると、乾燥風の温度条件が近似する五〇度C、四m3/<省略>の場合において、これは乾燥工程前の籾殻の含水量三・七%のものが一・四%減つたもの、すなわち二・三%、一〇分間の乾燥状態に相当するが、これは同条件の下で一四分間乾燥したもの、すなわち「乾燥度としては充分で、しかも安全度を見込んだ」※印のものよりも若干乾燥率が小さい数値である。
<2> また、これを前記第二実験例と対比すると、乾燥風温度が近似している五〇度C、六m3/<省略>で一二分間乾燥した場合と同等である。これは右の条件で一四分間乾燥した場合、籾殻の含水量が一・五%、すなわち本願発明の「乾燥度としては充分で、安全度を見込んだところ」と記載されている※の値に近似する。
以上のとおりであるから、第五引用例の表Ⅱの資料も、本願発明の発明の詳細な説明の項の第一実験例及び第二実験例の数値と同様に、籾殻の乾燥が停止する前に乾燥室を流下離脱しながら籾米が乾燥されていることを示しているということができる。
そして、籾米の乾燥装置の構造が特定され、乾燥風の温度、籾米の乾燥時間、乾燥工程の前後における籾米の含水量の数値が知られているときにはその乾燥風量もまた一義的に特定されるものであり、その具体的数値は、本願発明の発明の詳細な説明の項の第一実験例及び第二実験例に照応する資料として割出すことができ、それは本願発明にいうところの高温大風量であることが理解されるのである。
そうすれば、審決が、第五引用例には、「籾米の連続乾燥に用いた乾燥風の温度風量よりも高温大風量の乾燥風で、籾殻の乾燥が停止する前に籾米を流通する」ことが記載されているとした認定に誤りはない。
2 同2の主張について
原告は、審決が、第四引用例には乾燥時間と調湿時間との割合が乾燥室と調湿タンクとの各内容積の割合になるということが記載されていると認定したのは誤りであると主張する。
しかしながら、当事者間に争いのない請求原因三の事実によれば、審決は第四引用例に右の事項が記載されていると認定している訳ではなく、本願発明(二)と第一引用例記載の上部調湿タンクの内容積が大でそれに続く流下式の乾燥室の内容積が小さな循環調湿乾燥装置とを比較することを前提にして、「この乾燥時間と調湿時間の割合を乾燥室の内容積と調湿タンクの内容積の割合に換算すると、」として審決の判断を示しているに過ぎないことが明らかであるから、原告の右主張は当を得ない。
なお、原告は、審決の「この乾燥時間と調湿時間の割合を乾燥室と調湿タンクの内容積の割合に換算すると、乾燥室を1としたとき調湿タンクが6~10になる。」との判断が誤りであるとも主張する。
しかしながら、成立に争いのない甲第三号証及び第六号証の一・二によれば、第一引用例に記載されているような乾燥装置において、籾米の調湿時間と乾燥時間とから第四引用例記載のような好結果が得られる条件を実現させようとすれば、乾燥室の容積を1としたとき調湿タンクの内容積が各6または10の比率になることは代数計算の示すところである。
もつとも、第四引用例に示されているところは6か10だけであつて、6~10の中間の比率についての資料までは明示されていない。
しかしながら、右の数値は、当然に、籾米の品種や乾燥状態などの諸条件を考慮に入れて定められた数値であるから、6~10の間の数値に定めることが適切であるべき条件の籾米の品種や乾燥状態等が存在すべきことはいうまでもない。(むしろ、与えられる材料にかかる条件の多様性に徴すれば、6または10のいずれか二つの場合しかありえないとすることの方が不自然である。)
3 同3の主張について
原告は、審決が、第五引用例には乾燥風の温度、籾米の乾燥室滞留時間、乾燥率についてその認定のような連続値が記載されていると認定したのは誤りであると主張する。
前掲甲第七号証の三によれば、審決が引用している第五引用例の表Ⅱの資料は、表1に記載の試験番号「5、6の平均」と表示されているもののうちの6(第6試験)に係る資料であつて、同一の乾燥対象物の籾米を調湿工程を含み四回にわたり乾燥機にかけた結果を示したものであり、第一回と第二回との間には二三時間、第二回と第三回との間には一四時間、第三回と第四回との間には一〇時間の、各調湿時間が介在していることが認められる。
したがつて、右表Ⅱの資料は、各欄の中では相互に関連しているが、各欄相互の関係においては、その間にそれぞれ調湿時間を与えられているという以外には、それぞれが独立した資料というべきものである。
しかしながら、前掲甲第二号証によれば、本願発明の発明の詳細な説明の項において、そこに記載されている第一実験例及び第二実験例の資料は、右表Ⅱの資料と同じように、各欄相互の関連性は見当らないにもかかわらず、「要するに、使用する温度、風量によつて籾殻のみを乾燥する時間は異なつているが、およそ四〇度C~七〇度C、三~一二m3/sec、籾一トン当りの乾燥風をほぼ五分間位から二五分位までの間使用すれば、籾殻のみを乾燥させられるという事実が初めて判明したのである。」(第一一欄第一四行~第一九行)として、右の資料から(そのうち、七〇度Cの温度についてはその温度による実験例も示されていないのに)、右のような連続値の限定をするにいたつていることが認められるのであるから、これによれば、審決における前記連続値の認定も、本願発明の技術分野において経験則上是認できるものとするのが相当であつて、原告の右主張は理由がない。
以上のとおりであり、審決の取消を求める原告の主張はすべて理由がない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。
本願発明の要旨
1 籾米の連続乾燥に用いた乾燥風の温度風量よりも高温大風量の乾燥風で乾燥させる流下式の乾燥室(1)の上部に調湿タンク(9)を一体的に取付けて設け、これらの側方には循環用の昇降機(7)を付設し、前記乾燥室(1)の下部には、籾殻の乾燥が停止する前に籾米を流通する流通弁(4)を設け、しかも、流通弁(4)は間歇運動をなすように構成したことを特徴とする籾米の循環流動調湿乾燥装置。
2 特許請求の範囲第一項のものにおいて、前記乾燥室(1)の内容積と前記調湿タンク(9)の内容積の割合は、前記乾燥室を1としたとき調湿タンクを略5~20としたことを特徴とする籾米の循環流動調湿乾燥装置。
審決の理由の要点
本願発明の要旨は前項記載のとおりである。
本願発明の特許出願前日本国内において頒布された刊行物・特許第六五二五四号明細書(以下「第一引用例」という。甲第三号証)には、加熱した乾燥風で籾米を乾燥させる下槽すなわち流下式の乾燥室の上部に本願発明における調湿タンクに相当する上槽を一体的に取付けて設け、これらの側方には循環移送機すなわち循環用の昇降機を付設し、流下式の乾燥室の下部には手動によつて開閉する蓋すなわち流通弁を設けてこの流通弁を手動によつて適宜開閉させるようにするとともに、調湿タンク内における籾米の堆積時間を十分ならしめるように流下式の乾燥室の内容積に比べて調湿タンクの内容積を大きくした籾米の循環流動調湿乾燥装置に関する発明が記載され、同様の刊行物・米国特許第三一二九〇七三号明細書(以下「第二引用例」という。甲第四号証)には、流下式の乾燥室の上部に穀粒貯留室を一体的に取付けて設けるとともに、流下式の乾燥室の下部には穀粒を流通させるために間歇運動をする回転弁すなわち流通弁を設けた穀粒の乾燥装置に関する発明が記載され、同様の刊行物・昭和三九年一〇月全購連農業機械部発行「乾燥に関する試験成績(抜すい)」(以下「第三引用例」という。甲第五号証の一、二)(第一頁~第八頁 A乾燥速度の欄参照)には、テンパリングすなわち調湿すると、調湿中に乾き難い玄米の水分は籾殻に移動するため、実質の乾燥時間が少なくなつて胴割も少なくなり、しかも、籾米を乾燥する際に、本願発明の出願公告された明細書の発明の詳細な説明の欄中に記載されている籾米の連続乾燥に用いた乾燥風の温度である三五度Cよりも高温である四〇~六〇度Cの温度の乾燥風を用いるとともに、その風量を本願発明の出願公告された明細書の発明の詳細な説明の欄中に記載されている籾米の連続乾燥に用いた風量である籾一トン当り〇・四m3/secより大風量である籾一キログラムに対して〇・〇〇三~〇・〇〇五m3/sec、籾一トン当りに換算して三~五m3/secにした乾燥風を用いた籾米の乾燥、換言すれば、籾米の連続乾燥に用いた乾燥風の温度風量よりも高温大風量の乾燥風を用いた籾米の乾燥に関する発明が記載され、同様の刊行物・昭和三五年八月 食糧保管協会発行、食糧庁訳「食糧保管叢書第一六輯、アメリカ合衆国におけるもみ米および精米の水分調整と保管に関する研究―一九五八年以前の研究の回顧―」(以下「第四引用例」という。甲第六号証の一、二)には、本願発明の出願公告された明細書の発明の詳細な説明の欄中に記載されている籾米の連続乾燥に用いた乾燥風の温度である三五度Cよりも高温の一一〇度F(約四三・三度C)の温度の空気すなわち籾米の連続乾燥に用いた乾燥風の温度よりも高温の乾燥風を用いて行う乾燥とテンパリングすなわち調湿を交互に繰返して籾米を乾燥する際に、中粒種では乾燥時間五分に対して調湿時間を三〇分に、また、長粒種では乾燥時間三分に対して調湿時間を三〇分にすると満足な結果が得られるという籾米の乾燥、換言すれば、乾燥時間と調湿時間の割合を、乾燥時間を一としたとき調湿時間を中粒種で六、長粒種で一〇にすると満足な結果が得られるという籾米の乾燥に関する発明が記載され、また、同様の刊行物・一九五八年七月発行、「THE RICE JOURNAL、Vol.61、No.7」(以下「第五引用例」という。甲第七号証の一ないし三)(第一二頁、TABLEⅡ参照)には、籾米のテンパリングすなわち調湿乾燥に際し、本願発明の出願公告された明細書の発明の詳細な説明の欄中に記載されている本願発明の根拠となつた実験例である乾燥風の温度四〇~七〇度C、乾燥風を用いて乾燥する時間五~二五分、乾燥率一~二%の範囲内にある乾燥室に入る前の乾燥風の温度が一二四~一五〇度F(約五一・一~六五・六度C)で、籾米の乾燥室滞留時間が〇・二六~〇・二九時間(約一五・六~一七・四分)、乾燥室の前後における籾米の含水率の差(乾燥率)が一・三~一・六%になるような流通速度で乾燥室内を籾米が流通するようにした籾米の乾燥、換言すれば、籾米の連続乾燥に用いた乾燥風の温度よりも高温の乾燥風を用いて、籾殻の乾燥が停止する前に乾燥室内を籾米が流通するようにした籾米の乾燥に関する発明が記載されており、
(一) 本願発明の特許請求の範囲の第一番目の発明(以下「本願発明(一)」という。)は、加熱した乾燥風で籾米を乾燥させる流下式の乾燥室の上部に調湿タンクを一体的に取付けて設け、これらの側方には循環用の昇降機を付設し、流下式の乾燥室の下部には流通弁を設けた籾米の循環流動調湿乾燥装置である点で、第一引用例に記載された発明と一致し、(1)加熱した乾燥風で籾米を乾燥させるに際して、本願発明(一)では、籾米の連続乾燥に用いた乾燥風の温度風量よりも高温大風量の乾燥風を用いているのに対して、第一引用例には、この点について何も記載されていない点、(2)流下式の乾燥室の下部に流通弁を設けるに際して、本願発明(一)では、籾殻の乾燥が停止する前に乾燥室内を籾米が流通するように、しかも、間歇運動をするようにした流通弁を設けているのに対して、第一引用例に記載された発明では、手動によつて適宜開閉させるようにした流通弁を設けている点で相違する。
(1)の相違点については、調湿すると調湿中に乾き難い玄米の水分は籾殻に移動するため、実質の乾燥時間が少なくなつて胴割も少なくなり、しかも、籾米を乾燥する際に、籾米の連続乾燥に用いた乾燥風の温度風量よりも高温大風量の乾燥風を用いた籾米の乾燥に関する発明が第三引用例に記載されている以上、第一引用例に記載された発明において加熱した乾燥風を用いる際に、本願発明(一)のように、籾米の連続乾燥に用いた乾燥風の温度風量よりも高温大風量の乾燥風を用いることは、当業者であれば必要に応じて容易に実施をすることができたものである。
また、(2)の相違点については、流下式の乾燥室の上部に穀粒貯留室を一体に取付けて設けるとともに、流下式の乾燥室の下部には穀粒を流通させるために間歇運動をする流通弁を設けた穀粒の乾燥装置に関する発明が第二引用例に記載されており、しかも、籾米の調湿乾燥に際し、籾米の連続乾燥に用いた乾燥風の温度よりも高温の乾燥風を用いて、籾殻の乾燥が停止する前に乾燥室内を籾米が流通するようにした籾米の乾燥に関する発明が第五引用例に記載されている以上、第一引用例に記載された発明において、流下式の乾燥室の下部に手動によつて適宜開閉させる流通弁を設ける代りに、本願発明(一)のように、流下式の乾燥室の下部に間歇運動する流通弁を設けるとともに、この流通弁によつて籾殻の乾燥が停止する前に乾燥室内を籾米が流通するようにすることは、当業者であれば容易に考えつくことができたものであり、しかも、前記(1)及び(2)の各点を総合してみても、本願発明(一)は格別顕著な効果を奏するものでもない。
(二) 本願発明の特許請求の範囲の第二番目の発明(以下、「本願発明(二)」という。)は、その中から本願発明(一)に当る部分については上述したので、これを除外した部分について第二引用例と対比検討すると、両者は、流下式の乾燥室の内容積に比べて調湿タンクの内容積を大きくした籾米の循環流動調湿乾燥装置である点で一致し、流下式の乾燥室の内容積に比べて調湿タンクの内容積を大きくするに際して、流下式の乾燥室の内容積と調湿タンクの内容積の割合を、本願発明(二)では、流下式の乾燥室を1としたとき調湿タンクを略5~20としているのに対して、第一引用例には、この点について何も記載されていない。ところで、籾米の連続乾燥に用いた乾燥風の温度よりも高温の乾燥風を用いて行う乾燥と調湿を交互に繰返して籾米を乾燥する際に、乾燥時間と調湿時間の割合を、乾燥時間を1としたとき調湿時間を中粒種で6、長粒種で10にすると満足な結果が得られるという籾米の乾燥に関する発明が第四引用例に記載されており、この乾燥時間と調湿時間の割合を乾燥室の内容積と調湿タンクの内容積の割合に換算すると、乾燥室を1としたとき調湿タンクが6~10となり、したがつて、第一引用例に記載された発明において、調湿タンク内における籾米の堆積時間を十分ならしめるように流下式の乾燥室の内容積に比べて調湿タンク内容積を大きくする際に、本願発明(二)のように、流下式の乾燥室の内容積と調湿タンクの内容積の割合を、流下式の乾燥室を1としたとき調湿タンクを略5~20とすることは、当業者であれば必要に応じて容易に実施をすることができたものであり、しかも、そうしたことによつて本件発明(二)は格別顕著な効果を奏するものでもない。
(三) したがつて、本願発明(一)は、第一引用例ないし第三引用例及び第五引用例にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本願発明(二)は、第一引用例ないし第五引用例にそれぞれ記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明(一)及び(二)は、特許法第二九条第二項の規定により、特許を受けることができない。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
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